matsuo.

ツイッターより長い事を書きたい時に使ってます

ひきこもりはビタースウィート・サンバで踊る 

 

先日she isの公募に応募したものです。

お題は「超好き -Ultra Love-」

 

 

ひきこもりはビタースウィート・サンバで踊る/松尾愛

 

心を蝕む孤独にはラジオをどうぞ。

真夜中のビタースウィート・サンバを武器にして、引きこもりは踊り続ける。

 

絵を描く事が好きで美大に進学してから私の引きこもりは加速した。

所属する学科にはアトリエがなかったので、制作はほとんど家でしていた。予備校時代は朝の9時から夜の9時までぶっ通しでデッサンする事が当たり前で、黙々と作業する事はちっとも苦じゃなかった。しかし、集中力がきれた瞬間に襲ってくる、何だか得体の知れない孤独とやらにはこの時出会った。ハッとした。なんだ、この心細さは。わけもなく寂しい。一人だから寂しいのか。無音だから心細いのか。不思議だった。大概の事はお一人様でこなせる私が、一人を怖がっているではないか。その時ふと、予備校の恩師が私のデッサンに手直しを入れながら、ぽそっと呟いていた話を思い出す。

 

「今はこうしてアトリエで皆で描いてるけど、自分以外誰もいない場所で黙々と作業するのはなかなか厳しいもんよ」

 

先生は大学時代、必ず腰に携帯ラジオを巻きつけて、作品をつくっていたらしい。その声に飽きたら近所の公園や人通りの多い橋の下で、通行人の声を聞きながら作業していたそうだ。

 

「自分以外の物音がなくなると、だんだん気がおかしくなるんだ。滅入らないようにラジオをつけて音を流したり、外へ出て人の気配を感じながら、うまくバランスをとるんだよ」

 

よく漫画家がアイディアを出す時は必ずファミレスにこもりますって言ってたりするけれど、それと似た様な事かなと思っていた。

大学生になって一人暮らしをはじめてから、恩師の言葉の意味が分かった。6畳ちょっとの小さな部屋で、私は即気が狂った。無音が怖い。じっとしていられない。心臓の音が大きく聞こえる。一人の強さが増すからひとりごとは言えなかった。自分以外の誰か、音が、欲しくなった。すぐに窓を開けて、道路を走る車の音を聞いた。息ができた。恩師の言葉を思い出して、iPhoneでラジオのアプリをダウンロードした。小さなスピーカーから誰かの声が聞こえる。私以外の声がする。泣きそうになった。まやかしでもなんでもいい。それまでラジオなんて聞いた事なかったけれど、見知らぬ誰かのお喋りにすがった。

それからはオールナイトニッポンをよく聞くようになった。

元々お笑いが好きで、好きな芸人が担当する時間は欠かさず聞いた。オープニングにかかるテーマソング、ビタースウィート・サンバを聞くと身体が揺れた。引きこもりはビタースウィート・サンバで踊った。ハガキ職人という言葉も存在もこの時知って、私も何か読まれたいという気持ちになり、メールを投稿するようになった。

  

ある時、生放送開始1時間前に送ったメールが読まれた事があった。わっ!わっ!と飛び跳ねたくなった。ついさっき打ったメールを、大好きなパーソナリティが読んでいる。私のつたない文章を丁寧に読み、感謝の言葉をくれた。その声は、6畳の部屋に住み着いた孤独を打ち消す。たったそれだけの事で、何も怖くなくなった。孤独は消えて、私は安心して一人になった。

 

これを書いている真夜中1時41分頃、やっぱりラジオを流している。

会話と会話、隙間の広告、今週のヒットチャートをかき分けて、今夜も引きこもりはビタースウィート・サンバで踊る。

 

 

 

 

落ちてしまったけど、久しぶりにお題、締め切り付きで文章を書き、ちょっと気分が良くなった。折角だったので漫画家をしている友達にも読んで貰った。お笑いが好きだったりラジオが好きだったり好きなものが色々あっていいと言われた(その子はほぼ無趣味状態)

物心ついた時からオタク気質で、物事にのめり込みがちな所が最近とても苦しかったけれど、こういう風に思い出したり整理整頓して書くととても落ち着くし好きだと思う気持ちも肯定出来る。

 

本当にradikoiphoneがなかったらよう……って気持ち。